新宿のブックオフで万引きを発見した話
丁度今日の話。
大学の授業は一限と六限。
かなりの空き時間が生まれてしまう。
ぼくは知り合いとカラオケに勤しんだ後、ブックオフで立ち読みをすることで暇を潰すことにした。
だいたいいつも見るコーナーといえば、コミックと小説だ。新書や自己啓発本には目もくれない。あまり音楽も聞かないからCDコーナーにも興味はない。
ちょうどその時、ぼくは文庫小説のコーナーをうろうろしていた。100円で面白い本がないか身繕っていたのである。
そんな時だった。
隣に立っていた一人のおじいさんが、明らかに不審な動きをした。何かを勢いよく手持ちの袋(ブックオフで本を買うと貰える青い袋)に突っ込んでいた。突っ込んだ後、そしらぬ顔で店内を徘徊するおじいさん。
(……怪しい)
ぼくの灰色の脳細胞が、ぎゅるぎゅると回転をはじめる。いや、実際には特別頭が働いてるわけではなかった。ただ視線だけが、おじいさんを追う。
立ち読みをするフリをしつつ観察していると、やっぱり明らかに不審だ。行ったりきたりを繰り返している。それなのにずっと同じ本を片手に持っている。文庫の小説。もう既に、買ったときに貰える袋は持っているのにだ。
じっと見る。ぼくの動きというか、視線も不自然だったかもしれない。
少ししたタイミングで、その時はやってきた。
すっと、不器用な挙動で、おじいさんは本を袋に入れた。確実に、見た。生まれてはじめて万引きの現場を目撃した。
ぼくは考えた。何を考えたのかというと
- 店員さんにチクる。
- 自分で何か言葉を伝える
だ。
正直普通なら1を選ぶべきシーンだろう。
だが、一応は作家志望のぼくか、そんな普遍的選択肢を選ぶべきなのか?
ぼくは想像した。
店の外に出た瞬間に「警察だ!」と叫ぶ自分の姿を。
……って、それじゃぼくが捕まりそうだ。警察じゃないし。たしかそういう罪があったはず。
でも。ほんとに迷った。
ドラマが生まれるのは2の選択なのは明らかだったからだ。
今現在、ぼくは退屈していた。退屈していなければブックオフなんて来ない。退屈を紛らわす、ちょっとしたスパイスになりえるのじゃないだろうか?
そんな風に考えた。
考えた結果、ぼくは近くに居た店員さんに小声で、「あのおじいさん、万引きしてますよ」と伝えてあげた。
店員さんの目が光る。そして納得する。
あぁ、これでよかったのだ。
あのおじいさんを捕まえるのは、どう考えてもぼくの出番ではない。万引きをされて一番迷惑を受ける人たち、ブックオフの店員さんが捕まえるべきだ。つまりは器ではなかったのだ。
そんな風に自分を言い聞かせてーー。
また退屈な日常へ、舞い戻る。
それぞれの舞台で、頑張ればいい。
おじいさんがしたことはいけない事だけど、何か事情が合ったのかもしれない。100円の本を万引きしなくてはならない理由。
ホームレスで、お金が無い。
でも、本が読みたい。
そんな感じの、事情。
格好も汚なかったし。
ぼくがチクったことで、 あのおじいさんがどうなったのかは分からない。分からないしどうでもいい。自分の人生を生きるのに精一杯なのだ。ぼくは。
自分をそう、言い聞かせて、今日も東京で生きていく。