クロン・グレイシーが背負っているもの
カサレスという選手相手に一ラウンドで一本勝ち。チョークスリーパーによる決着だった。
勝利した後、クロンの顔には笑みがあった。
それはたぶん、勝利したことそのものに対する嬉しさ、喜びもあったのだろうけど、それだけではない気がする。
ぼくの目には、プレッシャーからの解放による安堵感が強いように見えた。簡単に言ってしまえばホッとしているように
クロン・グレイシーという男。
背負っているものが多すぎるのだ。
グレイシーという姓の重さ
ある種、総合格闘技、バーリトゥードの礎にはグレイシーという名は欠かせない存在だ。
グレイシーというブランドは、今より昔、総合格闘技黎明期とでも呼ぶべき時代より有名になった。
彼らはそれまでの格闘技の概念とはまるで違う文化、伝統を世界へ、そして日本へと輸入した。
ざっくり言うと、寝技。
ポジショニングの概念だ。
いまでは当たり前のマウントポジションも、かつては時代の最先端。
ヒクソンにマウントをとられたら終わりーー。それくらい、柔術は斬新かつ、今までになかった技術だった。
ヒクソンの息子であること
PRIDE1で高田延彦と戦い、そして倒した伝説の格闘家。かつて初期UFCで活躍したホイス・グレイシーが優勝後に言った
「兄は私の十倍強い」という言葉を皮切りに世界に知られ始める。その後日本で行われたバーリトゥードジャパンなどのトーナメントで優勝。
400戦無敗の伝説の男。
クロンはヒクソンの次男なのだ。
あらゆるグレイシーの中でも最も求心力があり、最強と呼ばれていたヒクソンの息子。
兄、ホクソンの死
クロンはヒクソンにとっての次男である。兄ホクソンはクロン以上の天才柔術家と呼ばれていた。
そんなホクソンは、まだ若い頃に色々なアクシデントが重なり亡くなった。
クロンは柔術の試合で勝ったあと、着ていた道着の内側をはだけてキスをする。
最初は汗を拭いていたのかと思ったけれど、そうじゃないらしい。クロンは内側にホクソンの写真を印刷してして、そこにキスをしているのだ。
ブラジリアン柔術の代表的選手であるということ
クロンはブラジリアン柔術を代表する戦士と言ってもいいと思う。
グレイシー柔術という意味でもそうだけれど、クロンほどピュアに、昔ながらの柔術をMMAで使う選手をここ最近ではみない。それこそ実の父親であるヒクソンにも似たスタイル。関節蹴りからの胴タックルで、現代MMAの最高峰である、UFCで勝ち星をあげた人間など、他にはいない。
クロンが今回勝ったことで、ネット上では数多の柔術家たちが喜びの声をあけだ。
それはつまり、そういうこと。
クロンは世の柔術家を代表したーーというよりも、ぼくら世の柔術を嗜む人間たちが勝手にクロンに乗っかっている。乗っかられたほうはたまったもんじゃないかもしれないが……。
クロンは背負っている。たくさんのものを。
それはたぶん、グレイシーという姓に生まれたものの宿命というか、運命というか。
あるいは呪いにも似た何か、なのだと思う。