上京してから

本/映画/文筆  26歳男性 https://twitter.com/krrtats

サラバ! 今さらながら読んだ感想をば

今さら語るようなレベルの小説ではないけれど、本当に今さら、『サラバ!』を読んだ。

 

サラバ! 上 (小学館文庫)

サラバ! 上 (小学館文庫)

 

 

サラバの著者は西加奈子先生という方で、写真を拝見したところ、とても綺麗な方である。格好もおしゃれで、でも自分のスタイルを確立している感じで、「あ、この人はモテるな」と思ったぐらいだ。ていうか好みだ。

 

あらすじ

累計百万部突破!
僕はこの世界に左足から登場した――。
圷歩は、父の海外赴任先であるイランの病院で生を受けた。その後、父母、そして問題児の姉とともに、イラン革命のために帰国を余儀なくされた歩は、大阪での新生活を始める。幼稚園、小学校で周囲にすぐに溶け込めた歩と違って姉は「ご神木」と呼ばれ、孤立を深めていった。
そんな折り、父の新たな赴任先がエジプトに決まる。メイド付きの豪華なマンション住まい。初めてのピラミッド。日本人学校に通うことになった歩は、ある日、ヤコブというエジプト人の少年と出会うことになる。

(Amazonよりあらすじ)

 

サラバ!は、自叙伝という体で物語が構成されていて、圷歩(あくつあゆむ)という名前の少年による一人称で、話が進められていく。

最初は子供なのだけれど、話が終わるころには37歳になっている。立派な中年といっていい年齢だ。そんな風にゆっくりと、一人の男の人生をおっていく物語なのだから、当然長い。大長編といってもいい長さの部類に入るこの本は、それでも読むのに難くない。なんていうか、読みやすいのだ。抜群に。たぶんそれは著者の力量の高さを証明しているということなのだと思う。頭に入ってきやすい文章ってのはやっぱりあって、(逆に頭に入ってきにくい文章というのもこの世には存在する)、西加奈子先生の書く文章、物語は、そういう事に特化しているように思う。

 

それは本人が大阪出身で、ノリがいい、笑いの分かる人だということも関係しているのかもしれない。読み手の空気や心情を想像して書いているのかもしれない。あくまでぼくの想像だけど、そういう事に対して、敏感な人なのではないかと思った。

 

これだけの大長編を書くというのに、西加奈子先生はプロットをまったく書かないらしい。それなのに、この整合性。伏線の回収。たまたまそうなっただけと本人はいうのかもしれないけれど、だとすればそっちのほうが凄いと思うのはぼくだけだろうか。

 

ぶっちゃけぼくは本を読むのが遅いのだけれど、それでも二日ぐらいで読めた。ページをめくるにつれて、世界観やキャラクターに対する理解が深まっていき、よりその先を追いたくなった。

 

 

特に好きなのが、主人公の姉、圷貴子なのだけれど、このキャラクター。全てが破綻していて、まともなところがひとつもないーーように見える。それは主人公の目を通して描写それているからであって、本当は誰も彼も、貴子のように生きねばならないのではないかと思う。貴子のように生きねば、本当に自分にとって必要なものは手に入らないんじゃないかと思う。最終的な貴子と歩の存在は、対照的に置かれていて、たぶんそれは、西加奈子生の哲学のようなものに、近いのではないだろうかと想像した。

 

サラバ について

 

サラバとは、魔法の言葉だ。

そもそも言葉は言葉でしかなくて、そこに意味合いをつけるのは、言葉の使い手であるぼくたち人間だし、あくまで元となる意味がそこに存在していて、それを表現するために、言葉を使う。

例えば【好き】という言葉があるけれど、恋している誰かを思い浮かべて使う時と、そうでないときでは、己にとって、あくまで己にとっての意味合いが変わってくる。しかしそれでも表面的には、あくまでただの【好き】でしかない。

言葉とはそういうものだ。

そういうものでしかない。

だからサラバは特別だ。あくまで、主人公の歩、そしてそれに関わる人にとって。

 

たぶんサラバは誰にでも存在していて、言葉ですらないのかもしれない。在るという事に気付かないほど、生活に密着していて、そこに当たり前にある。それがサラバだ。

 

人によって、それは宗教だったりするのかもしれない。サラバ!は宗教の話でもある。宗教とうものを、抽象的に捉えて、そして把握したうえで、物語を構成するうえで重要なキーのひとつとして、活用している。それは仏教だとかキリスト教だとかそういう話だけでなく、その人にとって幹となる信じられるものとはいったいなんだろう。それこそがサラバであり、人としての幹でもある。そう、サラバとはそういう話だ。

 

 

長いからーーと思わずに、読んでほしいな。

読めば分かる、とはまさにこのこと。

その世界観、サラバの世界観にどっぷり浸ってほしい。そして見つけてほしい。自分にとってのサラバを。